皮膚・皮膚疾患の四方山話2-1 -アトピー性皮膚炎なる名称の誕生ー
皆さん今日は! 南青山皮膚科スキンナビクリニック特別顧問の石橋です。今日は、先日お知らせいたしましたように、アトピー性皮膚炎について
前回に続いて話を進めたいと思います。
さて、前回は“アトピー”或いは“アトピー性疾患”についての概説と、何故この言葉が使われるようになったか、その経緯についてお話しました。そこで、これからは、では“アトピー性皮膚炎”は本当に“アトピー”なのか、つまり“アトピー性皮膚炎”は“気管支喘息”や“枯草熱”、一種の花粉症、と同じ種類の疾患なのか、という問題に進むことにいたします。
多くの皆様は“花粉症”のような鼻をクシュクシュいわせたり、目をショボショボさせるような病気や、また“気管支喘息”のように吸った息が出し難く苦しくなる疾患が、皮膚が赤くなってカユイカユイを連発して、全身を絶えず引っ掻くような病態と親戚の間柄にある、というのはちょっと信じ難いとお考えになるのではないでしょうか。気管支喘息は気管支“粘膜”で事件が起こり、枯草熱も鼻“粘膜”で異常が生じる病気です。つまり、この両者は気道“粘膜”でのトラブルという点では共通しています。これに対してアトピー性皮膚炎は“皮膚”という乾燥に適合した構造物での問題で、前2者とはかなり条件が違っています。こうした異なった構造物間の反応にも共通点があると言い出したのは、当時(1933年)アメリカのニューヨーク大学皮膚科教授であったM.B. Sulzberger博士とその仲間だったのです。
その経緯について触れますと、“喘息”や“枯草熱”は、内科や小児科、耳鼻科といった領域の疾患ですが、そこではこうした疾患を“アトピー”と呼んで取り扱っている、という話しが皮膚科領域にも伝わってきました。当時としては恐らく“センセーショナル”なニュースだったのではないでしょうか。それでは、皮膚科領域にはその概念に当てはまる病気はないのか、という議論となり、Sulzbergerとその同僚は、この領域でも古くから、“内因性湿疹”とか“ベニエー痒疹”或いは”“汎発性神経皮膚炎”といった、20数種の様々な診断名で呼ばれてきた病態があって、それがどうも“アトピー”に当るのではないかと考えたわけです。それ等の患者さんは喘息や枯草熱を合併することも多く、また家系内にそうした疾患に罹患する人があって、血中のレアギンも高いということで、その病態に“アトピー性皮膚炎”という新しい名前をつけるよう提案しました。前述のCoca とCookeが、過敏症を“正常型”と“アトピー型”に分類し、“アトピー”という新しい概念を導入したその10年後のことです。
その後、この病名が皮膚科領域のみならず内科、小児科等でも、一般的名称として使われ現在に至っているのです。そこで、このSulzberger達の考えは正かったのかどうか、つまりアトピー性皮膚炎は本当にアトピーと呼べるかどうか、それについては様々な議論がありました。そこで、これからその点について説明して行きますが、その前に、アトピー性皮膚炎という病名の後半部分の“皮膚炎”とは一体どういうものか、その言葉について解説しておきたいと思います。
少し話しが長くなりますので、皮膚炎の話しは次回にいたしたいと思います。どうぞお楽しみにお待ちください。