皮膚・皮膚疾患の四方山話3-1 -人における免疫防御機構とアトピーー
皆 さん今日は! 南青山皮膚科スキンナビクリニック特別顧問の石橋です。これまでこのブログにおいて、アトピー性皮膚炎の説明をしてまいりました。アトピーと は何か、皮膚炎とは何か、或いは炎症の意味は、それがアトピー性皮膚炎の名称で呼ばれるようになった経緯は、また免疫応答におけるその位置づけは、等につ いて、考えてきたことをお話しました。この調子では、アトピー性皮膚炎の症状、種類、疫学、病因、遺伝子、治療、ケアー等に説明が及ぶのは、まだまだ先に なるでしょう。しかし、基本的なことが理解できていないと何故アトピー性皮膚炎が変わった疾患なのかお分かり頂けないと思いますので、退屈とは思います が、少々辛抱してお付き合い頂ければと思います。さて、今回は普通の人とアトピー性皮膚炎と同じ皮膚炎であっても、どう同じでどう違うのかについて、そう いったことを中心に話を進めたいと思います。
た だ、その前に、またまたやや理屈っぽくなりますが、免疫学の基本的事柄について少しお話しておかなければならないでしょう。人は、これは人に限りません、 ハエのような生き物でもそうですが、この地球上で生きてゆくためには、勿論、適度な温度、酸素、水、或いはミネラル、栄養素といったものがなくてはなりま せんが、その他に、身の回りにいる、一寸気付かないもの、それは小さな“生物”、つまり細菌、真菌(かび)、或いはウイルスといったもののことですが、それ等の体内への侵入を防ぐことが何よりも大切になってまいります。
地 球上では様々な生物が、生きるため、また種を残すために、厳しい競争をしています。それに打ち勝ったもののみが生き残れるのです。生き物が死ねば、すぐ腐 敗が起こることをご想起ください。生きているからこそ、こうした有害微生物の侵入を実は我々は防いでいるのです。この生まれながらの外敵撃退機能、これが “免疫力”あるいは“免疫防御機構”と呼ばれるものです。
この免疫力は、普通、人では2段 階に分かれて行われていると理解してよいと思います。一つは“自然免疫”と呼ばれるもので、一般には白血球や貪食細胞やナチュラルキラー細胞といわれる細 胞等が外的異物の体内侵入に対応して生体を防御するために起こす行動と言っていいでしょう。しかし、その外に病原体はまず外界から体内に入りますので、皮 膚や粘膜等外界に面した細胞もこの特殊な機能を発揮しているのです。つまり、微生物を察知するアンテナのような装置(トル様受容体と呼ばれますが)を 持っていて、それを介して侵入物を感知し、抗生物質を出してそれを死滅させようとします。この機能は何億年も前に生物が獲得し今日まで伝わってきた機能で すが、最初ショウジョウバエが持っていることから明らかになったものです。ちなみに、アトピー性皮膚炎患者では表皮細胞の持つこの機能が低下していて、し ばしばウイルスや細菌の感染が起こりやすいことが知られています。
そ ういった訳で、この自然免疫は大変大切な機能なのですが、しかし実際にはそれだけで外的微生物を撃退できないことも起こって参ります。つまり、侵入菌量が 多かったり、菌の繁殖力や毒性が自然防御力を上回った場合には、菌は皮膚表面から体内に入って増殖を開始します。そこで、生体は、これも長い年月をかけて 保存してきた、2つ目の防御手段を発揮することになります。即ち“獲得免疫”と呼ばれる第2段階の準備態勢を整える訳です。これは、リンパ球を使って防御する方法で、アトピー性皮膚炎は特にこの第2段 階の機転に“変わった”性質を発揮するところに問題があると考えられています。付け加えますと、“自然免疫”は外からの“異物”の侵入に際して、それが何 であれ有害異物と知るだけで、つまり“顔も見ないで”、よそ者と判断して防御攻撃を行うものです。これに対して“獲得免疫”というのは、異物が以前侵入し た物でそれが再侵入しようとする場合、その顔を覚えていて侵入阻止に発揮される防御機能ということが出来ると思います。つまり、“顔見知りと確認して”攻 撃する防御機構のことを指しています。
今回はアトピー性皮膚炎が本当に“アトピー”に属す疾患であるかどうかを議論する上で、その理解を助ける意味で“自然免疫”と“獲得免疫”についてお話いたしました。引き続いて次回はこのアトピーの特徴とされている“変わった獲得免疫”について説明したいと思います。