皮膚・皮膚疾患の四方山話 4-2 -アトピー性皮膚炎はTh2型優位の皮膚炎である-
皆 さん今日は! 南青山皮膚科スキンナビクリニック特別顧問の石橋です。このブログでは私自身のアトピーについての思いを綴ってきましたが、ようやくアトピー性皮膚炎の本丸 に話しが近づいてきました。ただ、専門的な話しばかりで退屈になられた方も多いのではないかと思いますが、実はここからが生物、人も生物ですから、の持っ ている最も面白い所なのです。
こ れまで、“アトピー性皮膚炎”はいくつかの似た症状の病気の総称名である可能性が高いと申し上げてきました。従って、すべてのアトピー性皮膚炎に当てはま るとは言えませんが、少なくともその大部分をなし、この病気を代表する“普通のアトピー性皮膚炎”では、その発生の根底に、正常人の示す“免疫防御応答 性”とは大きく異なった応答性、即ち正常からの大きな“逸脱”があることは明らかであると思われます。患者によってはアトピーの特徴とされる血中のレアギ ン、即ちIgEの増加が認められない例もありますので、血中IgEの増加はアトピー性皮膚炎発症の必須条件ではないのかも知れません。問題は臨床症状に特に影響を与えている“皮膚炎”ですが、既にお話しましたように、リンパ球(ヘルパーT細胞)が 表皮内で大暴れした結果と考えられますので、これが普通の“皮膚炎”である“かぶれ”等にみられるリンパ球の暴れ方とどう違うのかが問題になりました。そ こで、これからその話しに入りますが、その一部については既に前回の話で述べましたので、繰り返しになりますことをご容赦頂きたいと思います。
“アレルギー”或いは“アレルギー反応”については、4、50年前の知識では“抗原と抗体”、即ち、“抗原と免疫グロブリンG、IgG、が反応(抗原抗体反応)”した結果、発生する“異常な生物現象”といった位の認識であったと思います。これは現在の考え方からすると“I型アレルギー”即ち“即時型過敏症”そのものに当たりますが、その後II型、III型、そしてIV型アレルギー、最近ではV型アレルギーまで出てきて、“免疫防御反応”が非常に複雑な“生物反応”であることが認識されるようになりました。ここでは、話しを“皮膚炎”に絞るため、“IV型アレルギー”、即ち遅延型過敏症についてしかご説明しませんが、この過程には抗原、抗体の他,2種のリンパ球、即ちB細胞(Bリンパ球)とT細胞(Tリンパ球)、更に貪食細胞(マクロファージ)、特に抗原提示能(何を貪食したか細胞表面に抗原として提示する機能)に優れた“樹状細胞”の働きが重要になってきます。
その“IV型アレルギー”ですが、それを引き起こす“細胞性免疫”において中心的役割を果たすのは“T細胞”ということは既に申し上げました。殊にその中のヘルパーT細胞(Th細胞)と呼ばれるリンパ球が重要なのですが、この細胞は、大まかに分けて2つの働きの違う種類があることが比較的最近明らかになってきました。一つはI型(Th1型)と呼ばれるもので、自分が認識した抗原蛋白/ペプチドや、それを持った細胞(例えば表皮細胞等)に出会うと、細胞分裂して数を増し、ガンマー・インターフェロン(IFN-γ)やインターリューキン2(IL-2)といったサイトカインを出して細胞を壊すように働く細胞です。これは普通の人(正常人)の起こす遅延型過敏症に見られるもので、例えば“銀杏かぶれ”や“ツベルクリン反応”では、このタイプのヘルパーT細胞が主に“効果細胞”として働き、強い炎症症状を示して参ります。
しかし、もう一つのII型(Th2型)のヘルパーT細胞の方は、抗原や、それを提示する標的細胞(表皮細胞等)に出会うと、細胞分裂して数は増えますが、ガンマー・インターフェロンではなく、インターリューキン4(IL-4)やIL-5、或いはIL-10といった“穏やかな”サイトカインを出して応答します。これ等はガンマー・インターフェロンと違って標的細胞を傷害する作用は弱く、代わりに好酸球(白血球)を呼び寄せたり、Bリンパ球に働きかけて、それを免疫グロブリン産生細胞/形質細胞に成熟させ、免疫グロブリンE(IgE)の産出を促すように、つまり応答を“液性免疫”重視の方向に誘導します。
“アトピー性皮膚炎”では特定の抗原や、それを提示する細胞(表皮細胞等)に対してこのII型の反応を示すヘルパーT細胞が増えていて、抗原が加わる度にIL-4の放出が続きますので、免疫グロブリンEが次々と産生され、血中の免疫グロブリンE(レアギン)の増加を伴った“アトピー”に合致した症状が起こると考えられます。従って、“アトピー性皮膚炎”はやはり“アトピー”(変わった皮膚炎)であり、“アトピー疾患”の範疇に位置づけられるということになります。
少し長くなりましたので今回はこの辺でお話を打ち切ることにいたします。